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[笑道] 第二章(1)-呼ばれぬ名前-

連載小説
「笑 道-わらいのみち-


役者志望の少年が、何の因果かお笑い芸人の世界へ。
タレント養成所を舞台に、『笑い』をテーマにした物語。
笑いの要素は一切ありません。ヘンなキャラ芸人ばっかりです。
でも、「笑い」って何なのかを伝えられる作品にしたいです。

携帯サイト…ぶんろぐPK…にて
先行連載中の作品を、加筆修正してアップ。

本作品の解説・登場人物紹介はコチラ
『笑道-わらいのみち-』解説・登場人物紹介

「笑道-わらいのみち-」
第二章「別世界」(1)-呼ばれぬ名前-


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 この冬一番の寒波が押し寄せてきた一月の半ば。僕は『フェイス・アクト』の入所式に参加するため、あのオーディション会場となっていたビルへやってきた。
 あの時とは違い、ビルにやって来る人はまばら。オーディションを受けに来ていた人の数を考えれば、狭き門をくぐり抜けてきたという表れか。僕の心に少しばかり自信が漲ってきた。

「一応、今日から芸能人の卵ってカンジかな」

 我ながら自覚を持つということが、こんなに恥ずかしいものとは思わなかった。でも、それほどに気持ちは高ぶっていた。
 ビルの階段を上り、三階の一室の前にやってきた。部屋の前に掲げられた据え置きの黒板には『フェイス・アクト 第三十一期Aクラス研修生 入所式』と書かれている。まさにそこはあのオーディション会場が行われた大広間だ。僕は慎重にドアノブを握り、恐る恐るドアを開いた。
 部屋の中は式の開始二十分前だというのに、すでに二十人近いオーディション合格者が入室しており、それぞれ緊張した面持ちで整然と並べられたパイプ椅子に着席していたのだった。
 僕はドアを閉めると極力みんなと視線を合わせず、目立たないように後ろの方の席に座る。僕が着席してまもなくだ。部屋のドアが開き明るい女の子の声が響き渡った。

「おはようございます!」

 その元気な声に返答したのは小声で数名。ハキハキとしたその声の主は、軽く部屋を見渡すと僕を発見した。すると小さく手を振りながら駆け寄ってくるではないか。

「オハヨー! 君、受かったんだね! おめでとう!」

「あ、いや、そっちこそ……おめでとう」

 そうだ、その子はオーディションの日、僕が演技に夢中になるあまり、誤って腕をぶつけてしまった演技の上手な女の子だった。驚いたことに彼女も合格していたのだ。いや、あの演技力ならむしろ当然だろう。僕が驚いたのはそうではなく、どこかで期待していた彼女との『再会』に対してなのかもしれない。

「私は中條瑞恵。あなたは?」

「ぼ……俺は、奥村光弘」

「奥村くん。これからよろしくね」

 どうしたんだろう、こんな気持ちは初めてだった。新しい世界への不安が一掃され、心の底からますますやる気が湧いてくる。その心にある彼女への淡い想いに気付く事に、それから数秒も要さなかった。

 僕は式が始まるまでの間、中條さんとしばらく会話した。どうやら僕と同じ中学二年生らしい。学校の事、住んでいる場所。他愛ない話に花を咲かせ、うかれ気分のまま時は過ぎ、やがて式が始まった。

 部屋に居る三十名ほどの新入生を担当するという、三十代らしき男性社員の青柳さんが、自己紹介を交え色々と説明を始めた。
 『フェイス・アクト』の歴史、新入生としての心得、授業の進め方、僕は持ち込んだ手帳に彼の言葉をメモしていく。
 一通り話を終えると青柳さんは唐突にそれを投げかけた。

「ではここで皆さん一人ずつ自己紹介してもらいましょうか。呼ばれたら前に出て、名前と簡単な自己PRをしてください」

 淡々とした表情で彼は名簿に目をやると、「では、伊藤洋子さんからお願いします」と新入生らに向かって声をかけた。呼ばれた伊藤さんが緊張した面持ちで皆の前に立つ。だが、名前を言った後しばらく押し黙ってしまう。やはり何を喋ればいいか分からず混乱しているようだ。

「何でも良いですよ。志望動機、やりたいこと、好きな役者。難しく考えず肩の力を抜いて話してください」

 そんな青柳さんの助言もあり、ようやく伊藤さんは話し始めた。そうして新入生それぞれの自己紹介が進んでいく。

 そんな中、一際存在感を示したのは中條さんだった。あのオーディションの日と同じように目を輝かせハキハキと話し始めた。でも、元気で明るく、誰からも好かれそうな彼女なのに、その目指すべきものはかけ離れたものだった。

「私は女優志望です。思い切り人に嫌われる女優になりたいです」

 その発言に驚いたのは僕だけではない。それまで俯いていた数名が頭を上げて彼女を見つめるほどだった。
 自己紹介を終えて席に戻ってきた彼女に僕が思わず声をかけた。

「今のって?」

「? 何かマズイ事言った?」

「あ、いや」

 どうやら僕は全速力で彼女の魅力に惹きこまれているようだ。だが、次の彼女の言葉で頭を冷やすことになる。

「それよりさ、奥村くんまだ名前呼ばれてないけど……これってたぶんアイウエオ順だよね?」

「あ……そういえば」

 やがて青柳さんは僕の名前を呼ばないまま名簿を閉じたのだった。

 淡々と授業用のテキストを配布しようとしだした青柳さん。どうやら僕の存在が完全に忘れられている。何かの手違いだろうか。僕はとっさに手を挙げて問いかけた。

「あの……すいません。僕、まだ名前呼ばれていないんですが」

 僕の申告に驚いた顔をした青柳さんは「これは失礼」と、改めて名簿をチェックするのだった。

「えと……君、名前は?」

「奥村です」

「おくむら……おくむら……うーん、おかしいな」

 その青柳さんの最後の言葉に僕は背筋が凍った。

「ちょっと待っていてね」

 名簿を手に慌てた感じで部屋を出る青柳さん。その途端、室内は先ほどまでの張り詰めた緊張の糸が切れ、みな安堵の表情を浮かべるのだった。
 しかし僕はそんな余裕などない。もしかしたらこの場所から強制退去の可能性が出てきたのだ。隣の中條さんが気を使って話しかけてくる。

「ちゃんと合格証書届いたんだよね?」

「うん……」

「じゃあ心配いらないって!」

 彼女の励ましも空しく聞こえ、いたたまれぬ気持ちのまま待つこと数分後、ようやく青柳さんが部屋に戻ってきた。

「奥村君、違う違う、ここじゃない」

 彼は何を言っているのか。理解できずに困惑していると、それを告げられるのだった。

「君は四階の入所式に行ってください」

「え?」

「ここはAクラス、俳優、女優クラスの入所式。君のクラスはお笑い芸人。バラエティ部門のWAクラスなんだ」

 その時、僕の体に電気が走り、目の前が真っ白に輝いた。そして大きく上ずった声でそれを叫んだ。

「バッ、バラエティぶもん?」

 その瞬間、室内が大爆笑に包まれてしまったのだった。




第二章「別世界」(1)-呼ばれぬ名前-  ここまで

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