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[笑道] 第一章(4)-オーディション(中編)-

連載小説
「笑 道-わらいのみち-


役者志望の少年が、何の因果かお笑い芸人の世界へ。
タレント養成所を舞台に、『笑い』をテーマにした物語。
笑いの要素は一切ありません。ヘンなキャラ芸人ばっかりです。
でも、「笑い」って何なのかを伝えられる作品にしたいです。

携帯サイト…ぶんろぐPK…にて
先行連載中の作品を、加筆修正してアップ。

本作品の解説・登場人物紹介はコチラ
『笑道-わらいのみち-』解説・登場人物紹介

「笑道-わらいのみち-」
第一章「華やかなる世界へ」(4)-オーディション(中編)-


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 僕が故・石原裕次郎さんの名曲『ブランデーグラス』の一番を歌い上げると、審査員の津村先生は「難しい歌なのによく歌えたね」と、笑顔を交え褒めてくれたのだった。これは良い印象を与えられたようだ。
 津村先生は採点表に記号のような物と、評価らしきメッセージを書き込むと僕の前に差し出して言った。

「じゃあ、今度は演技の坂野先生ね」

 僕は大きく頭を下げて「ありがとうございました」と礼を言うと、坂野先生の居るテーブルを探した。その足取りは会場に訪れたときよりも遥かに軽い。難問をクリアし、手応えを感じたのだ。

「あ、あの先生だな……」

 僕は自信満々で坂野先生の前に立つ。坂野先生は先ほどの柔和な感じを受けた津村先生とは違い、少々厳つい顔をした初老の男性だ。僕は浮き足立つ気持ちを抑えて先生の言葉を待った。

「はい、では演技を見せてもらいます。君は今、空を飛んでいます。その体で思いっきり表現してください」

 やられた。またしてもカリキュラムには載っていない課題をぶつけられてしまった。どうやらこの場で体を使って一人で黙々と表現しろというらしい。しかも直訳すれば『鳥になれ』と言わんばかりの強引な設定。周りには大勢の人が居るというのに、これではしらけ鳥の刑だ。
 しかし、この時僕は自分に問いかけた。

「何を恥じる必要があるのだ? ここはタレントを目指す為の第一歩の場所なのだ。ひとたびタレントになれば、人々の白い目に晒されながら、語り、踊り、時には歌わなければならないのだ。恥ずかしさも何もあったものではないではないか」

 その時、再び全身に寒気が走ると青白い光が目前に広がった。僕は無意識のうちに両手を真横に広げその言葉を発した。

「僕は風の子!」

 そしてテーブルの前を「ブンブン」言いながら八の字を描き走り回った。
 これはどうしたと言うことか? 自分で今、何をやっているか分からないほど、僕は『風の子』になっているではないか! その心地よさからついつい調子に乗り、坂野先生の存在も忘れ、無我夢中でその場を走り回るのだった。

 僕は今、空を飛んでいるイメージを浮かべ、まさしく『風の子』になった。両手を広げ縦横無尽にその場を疾風のごとく旋回していた。誰の声も、誰の目も気にせず、僕はそれを思いっきり表現し続けたのだった。
 しかし、あまりに調子に乗りすぎてしまい、わずか三メートルほど横で、別の参加者が審査を受けている事など、すっかり頭の中から抜け落ちてしまっていた。
 ……そして案の定それは起きた。隣で審査を受けていた女の子の腕に、広げた僕の手がぶつかってしまったのだ。

「あ、すいません」

 僕はその瞬間、自身が演技中という事も忘れ、『風の子』から現実に戻ると、その女の子に向かって思いっきり謝ってしまうのだった。すると、先ほどまで高揚していたテンションも一気に下がってしまい、またいつもの奥村光弘に戻ってしまったのだ。
 演技を中断した僕に、坂野先生は特にその表情を変える事もなく、「はい、結構です」と言うと、採点表にスラスラとペンを走らせた。先生の顔色を伺う限り、どうやら今回は大失敗のようだ。どんな事情があろうと、演技を途中で投げ出すなんて、プロの世界ではあってはならない事なのに……。

「次は……隣の川島先生に審査を受けてください」

 いきなり走り回ったせいか、少々息遣いが荒くなっていた僕は、その採点表を受け取ると息を整えながら坂野先生に頭を下げるのだった。

 次の審査に向け隣のテーブルに目をやると、先ほどぶつかった女の子がまだ審査中だった。その子も恐らく僕と同じ中学生くらいのようだ。
 その内容は、どうやらカリキュラムに書かれている台詞を基に演技をしているらしい。見ると彼女は全ての台詞を暗記済みのようで、目を輝かせ大きな声を出しその役を演じきっている。気付けば僕は目の前のライバルにすっかり見とれてしまっていた。

「ありがとうございました!」

 その女の子は審査をする川島先生に深く頭を下げる。その声で僕もようやく我にかえる事が出来たのだった。瞬間、僕の気が引き締まった。彼女くらいのレベルでなければ合格は厳しいのだと。
 すると、彼女は側で立っていた僕に気付き、微笑みながらエールを送ってくれる。

「お互い頑張ろうね」

 先ほどぶつかった事で、「彼女はきっと怒っているだろうな」と、思い込んでいた僕は、その言葉に拍子抜けしてしまい、「あ、うん」としか言えなかったのだった。
 女の子が次の審査に向かい、僕は入れ代わるように川島先生の前に立った。と、同時に僕は思い出した。

「あぁ、ヤバイ……台詞……」

 彼女はその台詞を完璧に記憶し、演技に集中していたというのに、僕は課題の台詞など殆ど覚えていないのだ。カリキュラムにもう一度目を通したかった僕だが、かといって読みながら台詞を喋るのはあまり良い印象を与えられないはずだ。
 そう、及第点では駄目なのだ。彼女ほどのレベルに至らなければ、このオーディションは合格できない。ここまでの通算成績は恐らく一勝一敗。何としても勝ち越さねばならない。どうすればこの危機的状況を乗り越えられるのだろうか。僕はジッと川島先生の第一声を待った。

 今日のオーディションで初めて女性の先生に審査してもらう。先ほどのように身体だけで表現させた坂野先生と違い、川島先生は本格的に役作りをさせるようだ。課題の台詞や設定が完全に思い出せない状態の僕にますます不安な思いがつのる。
 川島先生が採点表を見る。すると少し鼻で笑った気がした。採点表にはこれまで審査した先生からのメッセージが書かれていたようだが、僕はそれをあえて見なかった。というよりも、場の雰囲気に飲まれ、読んでいる暇も無かったと言ったほうが正解かもしれない。
 しばらくすると先生は思わぬ課題をぶつけてきた。

「じゃあ……あなたには即興で台詞を話してもらおうかな」

 すぐには理解しがたい言葉だった。課題の台詞を覚えていないという僕の不安は一掃された。しかし……「即興?」。よくよくその言葉をかみ締めれば、それどころではない事にようやく気が付いた。またアドリブの要求ではないか! しかも今度はかなりの高難易度だ。こんな事なら読みながら台詞を喋って、顔の表情や動きで表現した方がいくらかマシではないか!
 僕は何をどうすればいいのか、その新たな不安を抱え困り果てていた。すると混乱する僕に構う事無く、先生は少し考えこむ仕草の末、こう話しかけてきた。

「そうねぇ……あなたは今好きな女性に告白しようとしています。でも、彼女はあなたの親友が好きです。そしてそれをあなたは知っています。その上で彼女に告白してください」

 その無茶苦茶ゴーイングマイウェイな設定に、僕はますます混乱するのだった。



第一章「華やかなる世界へ」(4)-オーディション(中編)-  ここまで



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