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[笑道] 第一章(3)-オーディション (前編)-

連載小説
「笑 道-わらいのみち-


役者志望の少年が、何の因果かお笑い芸人の世界へ。
タレント養成所を舞台に、『笑い』をテーマにした物語。
笑いの要素は一切ありません。ヘンなキャラ芸人ばっかりです。
でも、「笑い」って何なのかを伝えられる作品にしたいです。

携帯サイト……ぶんろぐポケスペ……にて
先行連載中の作品を、加筆修正してアップ。

本作品の解説・登場人物紹介はコチラ
『笑道-わらいのみち-』解説・登場人物紹介

「笑道-わらいのみち-」
第一章「華やかなる世界へ」(3)-オーディション(前編)-


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 オーディションの日がやってきた。だけど朝からどんよりと曇り空。にわかに緊張している僕の心を、空が代弁しているようだ。
 オーディションの内容なんて分からない。一体、何を求められるのだろうか。やはり演技力を確認するのか。まさか水着審査なんて無いだろうな。そんなつまらない空想を描くうちに、電車は目的の駅に着いた。

 会場へ向かう道中、僕と同じくらいの年齢らしき多数の女の子がゾロゾロと同じ方向に歩いていく。

「もしや彼女達もオーディションを受けるのだろうか?」

 もちろん、それは勝手な決め付けで、会場であるビルに着く頃には駅で見かけたライバルになるはずの面々は殆ど残らなかった。
 僕は内心、競争率が低くなったという妙な安堵感も芽生えた。だが、立て看板に書かれた『フェイス・アクト オーディション会場』の文字を見た瞬間、再び緊張が体を駆け抜けるのだった。

 気持ちを落ち着かせるため、しばらくビルの前で参加者の様子を伺ってみる。その殆どが中高生くらいの女の子だ。友達同士で訪れたり、僕と同じように一人で乗り込んできたりする者も居た。しかし中には親子連れの姿もチラホラ。なるほど、例えこのオーディションが学歴や経歴にプラスになるようなものでは無いとしても、試験を受けるという事に変わりは無く、親が心配してついて来るのもおかしい話では無い。
 ただ、僕にとってそんな選択肢はあり得なかった。仮に親が「付いて行く」と言い出していたら、速攻で「来ないでくれ」と言っただろう。それは此処から先は自分で切り拓きたいという僕なりのケジメだった。願書を出した時からそう決めていたのだ。

 会場の横に設けられた待合室は、多くの参加者で溢れかえっていた。小学生らしき姿もあれば、中年の男性や女性、お年寄りの姿もある。他人から見れば一体何の集いだろうかと思う異様な光景だ。僕はそんなライバル達の中、今一度気を引き締め直すと、整然と並べられたパイプ椅子に腰を下ろした。

 しばらくすると係員らしき女性が声をかけてきた。年齢を伝えると番号札と一枚の紙を差し出される。

「呼ばれたら隣の部屋に来て下さいね」

 係員はそう言うと立ち去った。僕は軽く頭を下げて見送った後、その紙に目を通す。そこには台詞や表現力のテーマなどが書かれていた。どうやらこのオーディションで使用する課題のようだ。僕は時間を惜しみ一心不乱に課題であるその台詞などを覚えようと集中する。だが、迫り来る緊張がそれを覆いつくし、なかなか頭に入らない。結局、自分の番号を呼ばれるまでに覚えきることが出来なかったのだった。

「これは……ヤバイ」

 わずか五行ほどの台詞を覚えきれない自分を恥じた。これもきっと審査の対象になる。
 曇り空は晴れる気配も無いまま、僕は審査会場のドアノブに手をかけた。
 オーディション会場の部屋に入るとそれまで混みあっていた待合室とは違い、意外に広い部屋だったので少し驚いた。

 部屋には手前から奥に向かって机が一列に並べられ、審査員の先生方が等間隔で着席している。ざっと見渡しても十人以上居るようだ。この先生方全てに審査してもらうという事なのだろう。
 机の前には先生の名前と審査担当の書かれた紙が張り出されており、演技指導や発声といった科目ごとに区分けされていた。オーディションは特に審査する科目の順番が決まっているわけでは無いらしく、ランダムに空いた先生から順に審査を受けるようだ。
 基本的に先生と一対一で審査を受ける形。てっきりグループごとにまとめて審査されると思っていた僕は、思い描いていた物と違ったそのシステムに、緊張からますます混乱してしまった。気付けば先ほどまでかろうじて三行程度は覚えていたあの台詞も、今ではすっかりどこかへ飛んでいってしまった。

「次は……二百三十五番、奥村さん」

 係員から呼ばれ返事をすると、『審査表』と書かれた紙を手渡された。どうやらこの紙に先生方が採点をつけるようだ。

「それでは、君は始めに歌唱指導の津村先生の審査を受けてください」

「あ、ハイ」

 係員は僕の前を歩き、先生が座っている机の前へと案内してくれた。
 実はその間、僕は係員が言った『歌唱指導』の言葉が引っかかっていた。それはこのオーディションが役者としての演技中心の審査だと思い込んでいたからだ。

「歌唱っていう事は、やっぱり何かを歌わせるという事だろうか?」

 だが、先ほど手渡された課題には歌唱審査らしき科目は書かれていない。「せめて心の準備のために課題曲くらい載せておいて欲しいな……」と、僕は少々悶々とした気持ちのまま津村先生の前に立った。

 恐らく五十代前後と思われる男性の津村先生。先生は穏やかな笑みを浮かべながら僕に話しかけた。

「君は……今日これが初めての審査ですね」

「ハ、ハイ! お願いします!」

 そんな僕のハキハキとした返事が気に入ってくれたのか、津村先生はさらに機嫌良さそうに笑顔を見せて僕にそれを言い放った。

「それでは、君の好きな歌をいま歌って下さい」

「……はい?」

 いきなりの難題に僕は愕然とした。
 津村先生は戸惑う僕に気を使ったのか、続けてフォローしてくれる。

「何でもいいよ。歌詞を覚えている曲なら。例えば童謡でもいいからね」

 その先生の言葉でますます僕は混乱した。確かに童謡なら歌詞も覚えているし、メロディーも単調で歌いやすい。採点付きカラオケの高ポイントをヒットするには最適だとも言われている。
 しかし、ここにはカラオケのような伴奏はない。何より小学生ならまだしも、オーディションという大舞台で、「チューリップ」や、「いとまきのうた」や、「かもめの水兵さん」といった歌を、中学生にもなって臆面も無く歌える訳がない。あまつさえ学校の朝礼では後ろに並ぶくらい背も高く、どちらかと言えば老け顔と思うこの僕が。
 周りを見渡せばライバルが多数「合格」目指し審査を受けているこの状況。ここで僕が大声を張り上げ童謡など歌い出せば、きっと彼らは心の底で「勝てる、コイツには絶対勝てる」と、含み笑いをこらえるのに必死になるのは目に見えている。

 チラリと津村先生を見る。どうやら僕のように、いきなり出された課題で戸惑う参加者には慣れているようだ。選曲に時間のかかる僕に対し、特に苛立つ事も無く笑顔で答えを待ってくれている。

「どうすればいいんだ……」

 すると僕の体全身が突然猛烈な寒気に襲われ、目の前が青白い光に包まれたのだった。「ええい、ままよ!」。僕は心で叫んでついにある一曲のタイトルを口走った。

「石原裕次郎さんの『ブランデーグラス』を……」

 すんなりと言い切った。この曲はたまたま昨日テレビで見た、「ナツメロものまね大全集」で流れた一曲だ。
 別に取り立てて好きなわけではない。親が幼少の頃よく聴いていて、自然と歌詞も記憶に残っていた。ただそれだけの事だ。

 津村先生はそのタイトルに少し驚いたような顔をしたが、すぐさま「はい、じゃあお願いします」と丁寧に答えてくれた。僕は少々震える声で『ブランデーグラス』を歌い始めた。

「こ……、こぉ~れぇ~でぇ~およしよぉ~……」

 歌っている最中、ブランデーがこれほど苦いものとは思わなかった。もちろん飲んだ事は一度も無いが。


第一章「華やかなる世界へ」(3)-オーディション(前編)-  ここまで



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