不定期にお届けするエッセイです。
単発的に書いた論文とかテーマに絞った雑談とか。
今回のテーマ
「笑育」我おもう、ゆえに笑いとは…… 笑いは人を豊かにする。笑う門には福来るとはよく言ったものだ。この地球上の生命体で、笑うことのできる動物は人間だけと言っても過言ではないだろう。
笑うことで人は穏やかな気持ちを育むことができた。笑うことで住みにくい人間社会を生き抜いてきた。だからこそ人は弱肉強食という自然界の掟を回避することが出来たのかもしれない。
だが、ひとたび世間に目を向けると笑えないことばかり。政治不信、人間不信、人が人を食い物にする耳を疑うニュースが毎日のように氾濫している。人はいつしか笑うことを忘れ、憂うことでコントロールしようとする時代になった。このままではますます気が滅入ってしまう。
――もっと笑うことができたなら。
――もっと笑顔が絶えない社会が作れたなら。
きっと未来は変わるであろう。
本来、人が笑うという行為はどのように生まれるのか。それはまだ話すこともできない赤ちゃんを見ればよく分かる。赤ちゃんに向かって手で顔を隠し、「いない、いない、ばぁ!」と手を払い、顔を見せてあげれば大抵の赤ちゃんはその変化に自然と笑ってしまう。
つまり人が笑うというのは物事の現実と、自分自身の持つ感覚がずれた時に起こるギャップから生じるのだ。これは何も子供だけではない。大人もそうしたギャップから笑いが生み出されているのである。人は生を受けて、その生涯を終えたとしても「笑い」なしでは成り立たない生き物なのだ。
ただ、そうした「笑い」も、実生活で活かしきれていないのが今の人間社会なのかもしれない。家族間での凄惨な事件の数々は、身近な家族の仲でさえ、笑いをどこかに置き忘れてきた結果の表れではないだろうか。特に今の日本における笑いの文化は、良くも悪くも笑いの質が純粋な欧米諸国と異なり、笑いを深く求めすぎるあまり、その現実と感覚のギャップを無理に引き離そうとし過ぎ、結果笑いの本質を見失っているのかもしれない。
品格が取り沙汰されている中で、「笑い」の品も問われている。テレビが作り上げた昨今のお笑いブーム、これは人々がいかに笑いを求め、欲しているかの表れだ。
だが、テレビというメディアは罪作りなもので、笑いという「結果」ばかり優先するあまり、笑いを「構築」する事を忘れてしまい、笑いの品質を失いつつある。芸人の一挙手一投足に無駄なテロップを流し、「ここが笑う所ですよ」と視聴者に指図する有様。つまり笑いの押し付けである。
笑いは無理矢理相手を誘導して生まれるものではなく、相手を惹き込んでいなければ生まれない。受け手の感覚を理解し、掴んでいなければ笑いになるはずが無いのである。昨今テレビ番組が起こした数々の失態は、そうした視聴者との感覚のズレに気付いていないゆえ起こるべくして起こっているのだ。
一方で感覚を大事にする日本の伝統芸能は数多い。漫才、落語、演劇はもちろん、歌舞伎、狂言の世界でもそう。それらは作り手が設定を明確に確立させ、受け手をきちんと意識し、世界観を構築することによって、結果ギャップが生じたときに笑うことができるのである。これこそ日本人の笑いの構築であって、誇るべきものなのだ。笑いの品質が問われるとはそういうことなのである。
一般的に下品と称される「下ネタ」も、そのタブーを凌駕するだけの設定が備わっており、受け手の感覚を理解して作り上げた結果ならば、それを一概に「下ネタだから」と否定することは軽率と考える。オチが何であろうと受け手の感覚を無視した時点でそれは程度の低く品質の悪い笑いになってしまう。いや、何よりそこから笑いなど生まれるはずが無いのである。
ただ、残念なことに今のテレビ番組は視聴者を見ていない。現実と感覚のズレを作る前に、現実の時点でギャップを求める番組が殆どなのだ。このままではますます日本人は笑うどころか笑う術すら失ってしまうのではないかと危惧してしまうほどだ。
最近になって食生活を見直そうと「食育」なる教育法が声高に叫ばれている。ただ食べるだけではなく、意識を持って食生活を送ることで社会のしくみも勉強することができる。そして食事を終えたとき、そうした過程を踏まえた上で食欲が満たされ、満足感から笑顔がこぼれる。これはつまり品のある笑いの構図と同じと言えるのではないか。結果ばかりを求めすぎて過程を粗末にすると、家庭にも影響が出るということである。
昔は漫才の一つも聞けば、どこかに必ず教養があり、笑いを通して社会や歴史を知る事ができた。さて、今の漫才に、今のテレビ番組に、そうしたものを提供してくれる質の高い笑いがどれほどあるのだろうか。そして何も笑いを提供する側だけではなく、受け手の側もそうした品質を見極める努力をしているのだろうか。食育も大事だが、これからはそれと同時に「笑育」も必要な時代になったのではないだろうか。
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